更年期障害:ホルモン治療の選び方
- レディース 広尾
- 11月25日
- 読了時間: 4分
はじめに
40代後半から50代にかけて、女性の体は閉経を迎える前後10年間の「更年期」に入ります。この時期には、卵巣機能の低下によって女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少し、体や心にさまざまな変化が生じます。中でも「更年期障害」と呼ばれる症状は、日常生活に支障をきたすほど強い不調となることがあります。実際に国立成育医療研究センターの調査では、日本人女性の閉経年齢は平均50.5歳であり、その前後に不調を訴える女性が増えることが報告されています。
更年期障害の仕組み
更年期障害の根本的な原因は、卵巣機能の低下によるエストロゲンの減少です。このホルモンの変化により、自律神経のバランスが乱れたり、神経伝達物質の働きが不安定になったりします。その結果、顔のほてりやのぼせ、大量の発汗、動悸、めまいなどの身体症状に加え、気分の落ち込みや不眠といった精神的な症状が現れます。さらに、エストロゲンは骨や血管の健康維持にも関わるため、骨粗鬆症や動脈硬化といった長期的な健康リスクも高まります。
症状・特徴
厚生労働省の調査によると、更年期の女性の約50〜60%が「ホットフラッシュ」と呼ばれるほてりや発汗を経験しています。その他にも肩こりや頭痛、関節痛、倦怠感などが日常生活を妨げる原因となります。また、精神的にはイライラ、不安、気分の落ち込みといった症状が多く、仕事や家庭生活にも影響が及びやすいことが指摘されています。こうした症状は「年齢のせいだから仕方ない」と我慢されがちですが、適切な治療により改善できることが明らかになっています。
検査と診断
更年期障害は症状の多様さから他の病気と区別が難しいこともあります。そのため婦人科では、問診や血液検査を通じてエストロゲン値や卵胞刺激ホルモン(FSH)の変化を確認し、必要に応じて骨密度測定や血液脂質の検査も行います。こうした検査によって、更年期障害に伴うリスクを早期に把握し、適切な治療法を選択することが可能になります。
ホルモン治療の種類
更年期障害の治療法の中で、科学的に最も有効性が確立されているのがホルモン補充療法(HRT)です。HRTは、減少したエストロゲンや必要に応じてプロゲステロンを補うことで症状を改善します。
HRTの効果
国立成育医療研究センターのデータでは、HRTによってほてりやのぼせといった血管運動神経症状が80%以上改善することが示されています。投与方法には内服薬、皮膚から吸収するパッチ、ゲル剤があり、貼付薬やゲル剤は肝臓を経由しないため副作用が少ないとされています。
子宮を有する女性には子宮体がんを予防するためにエストロゲンとプロゲステロンを併用し、子宮を摘出した方にはエストロゲン単独療法が行われます。
副作用とリスク
一方で、HRTには注意すべき点もあります。長期使用により乳がんの発症リスクがわずかに上昇することや、肥満や喫煙のある方では血栓症のリスクが高まることが報告されています。そのため、治療を始める前には乳がん検診や子宮体がん検診を受け、血液検査でリスクを確認することが重要です。また、日本産科婦人科学会は「閉経後10年以内、かつ60歳未満での開始」が効果と安全性の面で望ましいとしています。
生活習慣・セルフケア
ホルモン治療と並行して、生活習慣の改善も症状緩和に役立ちます。例えば、バランスの取れた食事や定期的な運動は骨粗鬆症や生活習慣病の予防につながります。十分な睡眠とストレスマネジメントも自律神経の安定に有効です。また、漢方薬や抗うつ薬など、HRT以外の選択肢も症状に応じて用いられることがあります。
婦人科受診の目安
更年期の症状が強く、日常生活に支障が出ている場合は、我慢せずに婦人科を受診することが推奨されます。特に、ホットフラッシュや不眠、気分の落ち込みが続いている方、また骨粗鬆症や心血管疾患の家族歴がある方は、早めに相談することで将来の健康リスクを軽減できる可能性があります。
まとめ
更年期障害は「年齢のせい」と片付けるものではなく、適切な医療介入によって大きく改善できる症状です。日本人女性の半数以上が経験するホットフラッシュをはじめ、身体的・精神的な不調は生活の質を大きく左右します。ホルモン補充療法は80%以上の改善効果があり、適切な時期に始めれば将来の骨や血管の健康も守ることができます。一方でリスクもあるため、医師と相談しながら自分に合った治療法を選ぶことが大切です。もし更年期の不調に悩んでいるのであれば、まずは婦人科を訪れ、安心して過ごせる毎日のための一歩を踏み出してみてください。


