月経前不快気分障害(PMDD):強い症状を抱える女性への治療法
- レディース 広尾
- 6 日前
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はじめに
「生理前になると気分が落ち込み涙が止まらない」「家族や同僚にイライラして自己嫌悪に陥る」——このような経験を持つ女性は少なくありません。月経前に不調が出ること自体は珍しくありませんが、生活や仕事、人間関係に大きな影響を与えるほど強い症状が出る場合、考えられるのが月経前不快気分障害(PMDD: Premenstrual Dysphoric Disorder)です。
日本ではPMDDは生殖年齢女性の約1.2〜6.4%に見られるとされ【日本産科婦人科学会2025年指針】、決してまれな疾患ではありません。本記事では、PMDDの特徴、社会生活への影響、治療薬の選択肢、生活習慣改善までを解説します。
1.PMDDの定義と特徴
1-1. PMDDとは
PMDDは月経前症候群(PMS)の中でも特に精神症状が強く現れるタイプです。米国精神医学会の診断基準DSM-5にも正式に位置づけられています。
特徴的な点は以下です。
・排卵後(黄体期)に始まり、月経開始とともに改善する
・毎月繰り返し起こる
・日常生活や仕事に大きな支障を与える
1-2. よく見られる症状
身体症状もありますが、精神症状が中心です。
・抑うつ気分、絶望感
・強いイライラや怒り
・感情の起伏の激しさ
・集中力低下
・不安や緊張感
これらが重なることで家庭生活や職場でのパフォーマンスに大きく影響するのが特徴です。
2. 精神症状の影響
2-1. 日常生活への影響
厚生労働省の調査によると、PMSの症状を経験する女性は70〜80%にのぼります。その中で、強い精神症状により社会生活に支障を来すのは約5〜8%程度と報告されています【厚生労働省調査】。
症状が強い女性では以下のような影響が現れます。
・職場での集中力低下や欠勤
・家族への感情的反応
・自己評価の低下や罪悪感
2-2. 精神疾患との関連
PMDDはうつ病や不安障害のリスク因子ともなり得ます。特に精神疾患の既往歴がある女性では症状が重くなりやすいと報告されています【国立成育医療研究センター】。そのため早期の介入が重要です。
3. 治療薬の選択肢
PMDDの治療は薬物療法とライフスタイル改善の両輪で行われます。
3-1. 抗うつ薬(SSRI)
PMDDに最も有効とされるのが選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。
・黄体期のみに服用する「間欠投与」でも効果がある
・抑うつ、不安、イライラに即効性を示すことがある
・日本でも産婦人科で広く用いられている
SSRIの使用によって、患者の約70%で症状の改善が見られるとされています【国立精神・神経医療研究センター】。
3-2. 低用量ピル(OC/LEP)
排卵を抑制し、ホルモンの変動を安定させることで症状を軽減します。避妊効果もあるため、妊娠を希望しない女性に適しています。
3-3. GnRHアゴニスト
重症例で用いられる治療薬ですが、更年期様症状(骨量減少やほてり)を伴うため、短期間に限定して使用されます。
3-4. 漢方薬
軽症〜中等症に対しては、当帰芍薬散や加味逍遙散が使われることがあります。副作用が少なく、体質に合わせた対応が可能です。
4. ライフスタイル改善
4-1. 睡眠とリズム
十分な睡眠と規則正しい生活は、自律神経とホルモンリズムを安定させます。
4-2. 食事
カフェインやアルコールは不安・緊張を悪化させるため控える
ビタミンB6、カルシウム、マグネシウムの摂取はPMS症状の緩和に有効と報告されています【国立成育医療研究センター】
4-3. 運動
週3回以上の有酸素運動は、気分の改善に役立ちます。ストレッチやヨガも推奨されます。
4-4. ストレスマネジメント
・日記をつけて症状が出る時期を把握する
・パートナーや家族に「PMDDは病気である」と理解してもらう
・必要に応じて心理カウンセリングを受ける
まとめ:PMDDは「気のせい」ではない
・PMDDは生殖年齢女性の約1.2〜6.4%に見られる疾患
・精神症状が主体で、抑うつや不安、イライラが強い
・抗うつ薬(SSRI)が第一選択であり、ピルや漢方薬も有効
・睡眠・食事・運動・ストレス管理が治療効果を高める
「生理前だから仕方ない」と我慢する必要はありません。つらい症状が続く場合は、婦人科や精神科に相談してみましょう。適切な治療とサポートで症状は改善し、生活の質を大きく向上させることができます。


